無償と有償ボランティア~多世代を巻き込むヒント~

地域活動は、高齢者支援や清掃、子どもの見守りなど、日常を支える多様な取り組みによって成り立っています。こうした活動の担い手不足が深刻化するなか、選択肢の一つとして、有償ボランティアがあるのではないでしょうか。無償・有償それぞれの特徴や法的な留意点、多世代への呼びかけの工夫を整理し、持続可能な地域づくりのヒントを探ります。

地域づくりとボランティア活動


多様なかたちで支えられている地域活動

地域活動は、町内会や自治会による活動から、特定のテーマに取り組む市民団体、災害支援や環境保全を目的としたボランティアグループまで、その形態は多岐にわたります。これらの活動は地域コミュニティの基盤となり、行政サービスだけでは行き届かない細やかなニーズに応えています。

例えば、高齢者の見守り活動、子ども食堂の運営、地域の清掃活動、伝統文化の継承イベントなど、地域住民の主体的な参加によって成り立つ活動が数多く存在します。近年では、SNSを活用した新しいコミュニティ活動も増えています。従来の地縁型コミュニティに並んで、テーマ・目的型コミュニティも地域を支える重要な存在となっています。

地域の中で混在する無償・有償のボランティア

従来、ボランティア活動は完全な無償性を前提としていましたが、現在では活動に対する交通費や実費の支給はもちろん、活動時間に応じた謝礼や報酬が支払われるケースも一般的になっています。

この背景には、以下のような要因が考えられます:

  • 人口減少・高齢化に伴う長期的・継続的な活動の持続性確保の必要性
  • 参加者の金銭的負担を軽減し、多様な層の参加を促進する意図
  • 地域課題の複雑化に伴う「善意だけに頼らない」仕組みづくりの必要性

特に、高齢者の生活支援や子育て支援など、社会福祉的側面の強い活動においては、有償ボランティアという形態が浸透しつつあります。

これからは、地域内だけでなく地域外との連携・若い世代の参画を促すためにも、活動内容と報酬・謝礼設計を適切に整理し、透明性を高めることが重要になります。

 無償・有償ボランティアの違いや特徴について一緒に理解を深めましょう。

無償と有償ボランティア|押さえておきたいポイント

実費・謝礼について

無償ボランティアでは、原則として対価は発生しません。ただし、活動に伴う交通費や材料費などの「実費」が支給される場合があります。

(なお、本ページでは、実費が弁償される活動までを無償ボランティアの範囲とし、実費を超える支払いがある活動を有償ボランティアと定義・解釈して説明を続けます。)

「謝礼」は、活動への感謝の気持ちを金銭で表すものですが、実態として支払報酬に該当する場合(講演料、原稿料など)は源泉徴収が必要となります。(受領側としては雑所得に該当するため原則的に確定申告が必要)

後々のトラブルにならないよう、活動の趣旨や支給する費用の性格を整理し、参加者に事前に周知することが、地域活動の安定運営には不可欠です。

有償ボランティアとは何か?NPOとの違い

有償ボランティアとは、活動に伴う負担軽減や謝礼として金銭支給を行う形態であり、労働契約とは異なります。ここで注意したいのは、時給制や継続的な活動に対しては、少額の謝礼であっても「給与所得」扱いになる可能性があります。運営団体として源泉徴収が必要かどうか確認が必要です。請負(委託)の場合は不要。

一方、NPOは法人格を持つ団体であり、スタッフとの間に正式な雇用契約を結ぶことが可能です。

これらを明確にせず募集・活動してしまうと、労働基準法違反などのトラブルに発展する恐れがあります。特に、活動内容が継続的で指揮命令が発生する場合には、有償ボランティアでも、「労働」とみなされて労基法に従う必要があるため、活動の設計段階で慎重な検討が必要です。

地域活動の継続性に与える影響

地域活動を無償ボランティアで支え続けることには、限界があります。特に担い手が減少する中では、金銭的支援によって参加ハードルを下げる工夫は有効と考えられます。

ただし、活動への参加理由が「お金」だけに偏ると、モチベーションや活動の質が低下するリスクもあります。無償・有償のバランスを丁寧に設計し、活動の意義を共有しながら運営することが、長期的な活動継続につながります。


地域活動の4つの選択肢と検討視点

1.無償ボランティアの継続:善意と負担のバランス

無償ボランティアによる支え合いは、地域の強みでもあります。しかし、一定の世代や特定の人に負担が偏りやすく、燃え尽きやすい構造的な課題も抱えています。
この形態を選ぶ場合は、感謝や達成感を感じられる工夫、参加しやすい柔軟な仕組みづくりが重要です。また、活動の「見える化」や「ありがとう」を伝える仕組みを取り入れ、精神的な満足感を高めることが、持続性向上のカギとなります。

2.有償ボランティアの導入:参加促進と運営リスク

金銭的謝礼を導入することで、特に若年層や子育て世代の参加ハードルを下げることができます。ただし、謝礼が労働報酬とみなされるリスクや、継続的な予算確保などの運営課題も伴います。制度設計時には、金額基準、支給対象、支払い方法を明確にし、トラブル防止策を講じる必要があります。

有償化は万能ではありませんが、適切に運用すれば、担い手不足対策に有効な手段となります。

3.NPO法人等の組織化:資金確保と事務負担

NPO法人化によって、助成金獲得や事業収益による資金確保が可能になります。
これにより、地域活動を事業ごとに計画的に展開できるようになりますが、法人化には事務負担が増えるため、会計・税務・労務管理に対応できる体制整備が必須となります。
善意だけに頼らず、一定のプロフェッショナル意識を持った運営が求められます。

4.無償・有償の組み合わせ

地域の事情や活動内容に応じて、無償と有償を柔軟に組み合わせるのも有力な選択肢です。

たとえば、草刈りなど体力を要する作業には謝礼支給、交流イベント運営は無償参加とするなど、活動ごとに線引きを行う設計です。

すでに組み合わせた取組を実施している場合もあると思いますが、重要なのは「線引きを明確にする」「参加者への説明責任」を果たすこと。ルールを明確にしつつ、地域特性に合わせた柔軟な仕組みを用意することで、多様な人材の関与を促進できます。


有償ボランティアの留意点


有償支給が賃金とみなされるリスク

有償ボランティアを企画運営する団体において最も注意すべき法的リスクは、支払われる金銭が「賃金」とみなされ、労働関係法令の適用対象となる可能性です。

労働基準法上、「使用者の指揮命令下で労働し、その対価として賃金を受け取る」関係は労働契約とみなされます。有償ボランティアが以下の条件に該当すると、法的には「労働者」として扱われる可能性があります:

  1. 活動内容や時間が組織によって指定・管理されている
  2. 活動への参加に強制力がある(断れない)
  3. 時間や作業量に応じた報酬が支払われている
  4. 報酬額が最低賃金に近い水準である

労働者とみなされると、最低賃金法、労働基準法、労働安全衛生法などの適用対象となり、社会保険の加入義務や源泉徴収などの税務上の義務も発生します。ボランティア活動だからといって安心せず、法的リスクへの認識を持っておくことが大切です。

法的・税務的なトラブル防止のための注意点

リスクを回避するためには、活動内容に関するボランティアの自主性を尊重し、明確な指揮命令関係にならないように注意することが重要です。

また、支給する金銭については労働の「対価」ではなく、「謝礼」や「実費弁償」として明確に位置づけましょう。

必要に応じて税理士や社会保険労務士に相談し、契約書や支給明細を整備することも有効です。ルールを事前に文書化し、トラブル防止に努める姿勢が求められます。以下のような観点を参考にしてください。

1. 報酬の設計と位置づけの明確化

  • 時間給ではなく、活動1回あたりの「謝礼」として設定する
  • 実費弁済(交通費など)と謝礼を明確に区別する
  • 最低賃金を大幅に下回る水準にするか、逆に専門性に見合った適切な報酬として位置づける

2. 活動の自主性・自律性の確保

  • 活動への参加・不参加を自由に決められるようにする
  • 指揮命令関係ではなく、対等な協力関係として位置づける
  • 活動内容や方法について参加者の裁量を認める

3. 契約関係の明確化

  • 「雇用契約」ではなく「ボランティア活動同意書」など異なる形式を用いる
  • 活動の趣旨、報酬の性質、責任範囲などを明記する
  • 必要に応じて専門家(労務士・税理士など)に相談する

4. 運営の透明性確保

  • 報酬の算出方法や配分基準を明確にし、参加者の合意を得る
  • 会計処理を適切に行い、必要に応じて情報公開する
  • 団体としての意思決定プロセスを民主的に行い、透明性を確保する

世代で異なるモチベーション

各世代に響く活動にするには

金銭的報酬は一つの有効な手段である一方で、必ずしも思った方向に行くとは限らないと考えます。地域づくりでは、金銭だけに頼らず、精神的な満足感や成長実感をどのように提供できるか・共有できるかがポイントになるのではないでしょうか。

たとえば、学生世代は「社会経験」や「スキルアップ」、子育て世代は「社会貢献による自己実現」を求める傾向があります。中高年は「仲間づくり」や「社会的役割の実感」、高齢者では「生きがい」や「地域とのつながり感」を意識します。各世代のモチベーションを念頭に活動内容や呼び掛けを工夫することで、参加のしやすさ、継続的な関与を促進できます。

学生世代のモチベーション例

  • 将来のキャリアにつながる経験やスキルの習得
  • 社会問題への関心や理想の実現
  • 同世代のコミュニティ形成や多様な人との出会い
  • 自己表現や創造的活動の機会

子育て世代のモチベーション例

  • 子どもの成長環境の向上
  • 親子で参加できる地域の居場所づくり
  • 子育ての知識・経験の共有と蓄積
  • 自身のスキルを活かせる柔軟な活動機会

中高年世代のモチベーション例

  • 職業的専門性や経験の社会還元
  • 新たな分野への挑戦とスキルアップ
  • 地域における存在価値の確認
  • 退職後の活動基盤づくり

高齢者世代のモチベーション例

  • 健康維持と生きがいの創出
  • 知識・経験・技能の次世代への継承
  • 社会とのつながりの維持
  • 尊厳と役割の確保

特に、若年層や子育て世代など多忙な層にとっては、単発的な金銭報酬以上に、「やってよかった」という心理的な報酬がモチベーションに影響します。

活動を単なる労働や業務としてではなく、地域に関わる喜びが感じられる場にどうすればできるかという視点で、報酬や活動内容を設計していきましょう。


■本記事のポイントは5つ

  • 地域活動の継続には、無償・有償のバランス設計が重要
  • 金銭支給には法的・税務的な整理が不可欠
  • 「やってよかった」と思える場づくりがモチベーションの源
  • 世代ごとの関心に応じた関わり方の提案が必要
  • 報酬・活動内容のルールは明文化し、透明性を確保

地域づくりの現場では、無償と有償を“どう組み合わせるか”が問われています。
多様な世代が参加しやすい仕組みづくりを通じて、地域に持続的な力を生み出していきましょう。